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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(行ツ)85号 判決

東京都豊島区南大塚一丁目二七番一五号

上告人

中村友喜

被上告人

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

二木良夫

東京都千代田区大手町一丁目三番二号

被上告人

東京国税局長

金子知太郎

右指定代理人

清水敬至

二木良夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四七年(行コ)第三八号賦課処分無効確認等請求事件について、同裁判所が昭和四八年五月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

所論の点に関する原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

(昭和四八年(行ツ)第八五号 上告人 中村友喜)

上告人の上告理由

一、原審並に控訴審による判決は本訴訟の基準たるべき左記聯合軍最高司令官命令(当時マツカーサー命令は日本国の憲法その他に優先する最高権威の戦時国際法の公序であつた)並に特定財産管理令等に違反した被上告人等の課税処分の重大且つ明白な瑕疵を看過してなした違法の判決で破棄を免れない。

(一) 昭和二一年四月二三日終連報甲第四四五号聯合軍最高司令官命令

(二) 昭和二一年五月二四日特定財産管理令、勅令二八六号

(三) 昭和二二年七月以降、戦犯釈放の者に対しては財産差押解除

指定された個人の財産の管理押収及び封鎖の件、昭和二一、四、二七日、渉外課。

(四) 日本帝国政府宛覚書(東京終戦連絡中央事務局経由)

二、聯合軍最高司令官の命令には現在若くは今後拘留、逮捕若くば抑留されるであらう人の凡ての財産は不動産及動産は勿論直接或は間接に又全部でも一部でも苟も所有し若くば管理されている財産である限りは凡ゆる金銀白金通過証券金融機関の口座クレジツト貴重証書及びその他の凡ての財産を含み且之等の財産に限らず凡て日本政府に於て之を直ちに管理封鎖及び押収する様に指令するとあり。

特定財産管理令勅令第二百八十六号には

第一条 この勅令に於て特定人とは聯合最高司令官から逮捕、拘禁又は抑留されるべき者として指定された者をいふ。

第二条 この勅令において特定財産とは特定人が所有するすべての財産及び特定人が支配する財産であつて大蔵大臣の定めるものをいふ。

第三条 特定財産は大蔵大臣がその定めるところによりこれを管理する。

第四条 特定の指定があつた後においては特定財産については大蔵大臣の定めるところにより許可を受けなければその形質若くば現状を変更し又はこれを移動しその他管理を害する行為としてはならないとあり。

特定財産管理規則(五月二五日)には

特定財産の管理は差押の方法にする。(差押により国家管理となつたものに課税し再び差押へをなし競売した行為は前記第四条に抵触し不法課税処分である。)

三、以上の規定を本訴に照せば

(一) 上告人は昭和二十年十一月二十六日戦犯として巣鴨拘置所に留置され重労働十二年の刑に処せられた所謂特定人であり、

(二) 且つ上告人の当時の所有財産たる日本ホテルの家屋、家具、備品、什器、衣類(フトンユカタ敷布等)等一切は所謂特定財産として差押へられ上告人に対し大蔵大臣に於て管理する旨の通知があつた。

(三) 然らば上告人の前項財産に対し被上告人のなした課税処分は重大且つ明白な瑕疵があつて無効であるに拘らず原判決がたやすく被上告人の主張を容れ上告人の前記財産は特定財産として凍結されていないとして上告人の請求を棄却したのは法令の解釈を誤つたか若くば事実の誤認であり原判決は破棄を免れない。

(四) 又国家管理となり差押へられた特定財産には一切の課税が出来ない事は理の当然である。

而して若し凍結財産を使用して営業その他をなすものに対し課税の必要生じた場合は責任者たる大蔵大臣の許可を必要とし許可なくして課税したらその課税は不法である。

又仮令大蔵大臣の許可があつて課税する場合でも右凍結財産使用者が大蔵大臣に支払うべき家賃(当時は月十万円)家具備品、什器、衣類等の使用料(当時は月十万円)等は善良なる管理をなす為の必要経費並に修理、返還の時の賠償費その他の費用として課税から控除すべきは理の当然である。

然るに被上告人等が(1)大蔵大臣の右許可なく課税したばかりでなく(2)課税額から前記家賃、使用料等を控除せず課税徴収した事は管理を害した課税で戦時国際法並特定財産管理令第四条等に抵触する重大且つ明白な瑕疵ある無効な課税である。

而して上告人は右使用料、家賃等を主張立証したのに被上告人等は前記大蔵大臣の許可があつたこと及び右家賃使用料等を控除したこと若くばその必要のないことを主張立証しなかつた。原審がこれらの点を無視して上告人の請求を棄却したのは理由がなく原判決は破棄すべきである。

又控訴審において被上告人等は前記特定財産管理令はポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く賠償庁関係諸命令の措置に関する(昭和二七年法律第一六号)三条により昭和二七年三月八日癈止されているから本件課税処分に同令および同令に基く特定財産管理規則は適用されないことが明らかであるとしそしてまた本件土地建物の譲渡がなされた時のその譲渡所得の所得税につき適用される旧所得税法六条には非課税所得が掲げられているが特定財産の譲渡所得等については規定がなくそれについて特別の取扱いがなさるべき根拠はないから上告人のなした本件土地建物の譲渡につき旧所得税法により所得税が課税されるべきことは明らかである。したがつて同法に従つてなされた本件課税処分は適法であると主張しているがこの主張は凍結財産は税法から除外されている事を知らない主張である。

又この主張は戦時国際法並に特定財産管理令及管理規則が憲法や所得税法その他の法規に優先する法規であり而も特定財産管理法第四条が本訴の適用法則準拠法で(同法令が税法のみならずあらゆる法を排除し禁止している)それ故同法令に税法が抵触すれば税法による課税は大蔵大臣の許可なきかぎり無効であり不法である以上の事実を知らない被告人等の主張である。

然るに、上告人の右主張を無視して控訴を棄却した原審判決は法の適用を誤つたもので之を破棄すべきは論を俟たない。而して又上告人等は特定財産管理令等は昭和二七年三月二八日癈止されているからこの法規は本件には適用されないと主張しているが本件は国際法と管理令等に基き特定財産が国家により管理されたもので凍結財産が所有者に返還され承認され凍結が完結するまでは特定財産管理令、管理規則の国際法によらねばならない。

而してこれらの規定と抵触する所得税法等は仮令これらの規定が癈止されても凍結が完結するまでは税法その他の法規適用は許されない。かくの如く本件は国際法に準拠すべき事件で凍結解除後(官報による)と雖も又管理令等廃止後と雖も凍結財産をインベントリー財産目録に基き凍結中の諸費用(修理賠償等)の清算なし完全に被凍結者へ現実に全部の凍結財産の引渡しを完了し被凍結者の承認を得るまでは仮令凍結財産の保管修理破損品等の購入、凍結に関する負債その他の費用の為被凍結者がその凍結財産を譲渡せざるを得ない立場に追込まれ余義なく譲渡した場合でもその譲渡所得に対しては課税する事は出来ない(但し凍結責任者たる大蔵大臣の許可があれば課税する事が出来るがその場合でも凍結財産の管理が害され損害が生じた場合国家は凍結財産を返還する時その責任をとらねばならない)然るに被上告人等は凍結令が単に官報により癈止されたとの理由で未だ現実に完全なる引渡しが完了しない間の凍結財産の譲渡に所得税を賦課し徴収したのである。

又凍結期間中に於ても凍結財産に莫大なる所得税、財産税、都税、営業収益税等の諸税を賦課し凍結財産を差押へ競売に付し強制的に税金を徴収したのであるがこれに関しては控訴審に於ては全然これらの審理をしなかつたのである。かゝる凍結期間中に於ける課税並に徴収は明かに戦時国際法並に前記特定財産管理令等に抵触する不法税で如何に弁明しやうとも弁明の余地がないであらう。

而して又国家当局は凍結財産を差押へながら善良なる管理者の注意をもつて管理をしなかつた為前記の不法課税の原因となつたばかりでなく地方税、都税、営業収益税等の諸種の税金の莫大なる課税となり而も家賃その他凍結財産に対する控除もなく而も大蔵大臣の許可もなく税金を賦課し強奪したので被凍結人は凍結財産たる日本ホテルを全部なくする結果を招来しその上税金五百万円(支払済)の大損害を被つたのである。故に上告人は原判決を棄却し本件を原審に差戻す旨の裁判を求める。

以上

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